元請け開拓や協力業者の獲得など、建設業界でもBtoBマーケティングは非常に重要です。しかし建設業界では一般的なBtoBのロジックが「当てはまらない」「役に立たない」ことが多々あります。インターネット上には、BtoBマーケティングについて解説しているサイトも数多くありますが、そのほとんどが「使えない」のが現状です。
では、建設業におけるBtoBマーケティングは、どのように行えばいいのでしょうか? ここでは、建設業と他業種のBtoBマーケティングの違いや、成果を出すためのポイントについて解説します。
BtoBマーケティングの基礎知識
建設業と他業種のBtoBマーケティングの違いを理解するためには、まずBtoBマーケティング自体について理解しておく必要があります。そこで、そもそも「マーケティング」とは何なのかというところから、基礎知識を確認しておきましょう。
マーケティングとは?
マーケティングとは、簡単にいうと「ユーザーの満たされていないニーズを突き止めた上で、事業として十分な利益が期待できる市場を選択し、その市場に最適な製品やサービスを提供すること」です。そして、BtoB(企業間取引)に特化したマーケティング戦略や手法をまとめて「BtoBマーケティング」と呼びます。
BtoCマーケティングとの違い
BtoBはBtoC(企業対消費者間取引)に比べ、購入単価が高く、購買に関わる意思決定者が多く、購入までの検討期間が長いという特徴があります。購入を検討する企業の規模が大きくなればなるほど、一般社員~社長まで多くの承認フローが発生するため、検討期間が長期化する傾向があります。
また、BtoCの購買目的は生活の質の向上や娯楽ですが、BtoBの購買目的は業務効率化や費用対効果の向上などです。そのため、単なる個人の感情ではなく、金銭をはじめ多くの条件を考慮して、ロジカルに購入の決定がなされます。したがって、BtoBマーケティングを成功させるには、意思決定者全員を納得させられるアピールをしなければならないのです。
ちなみに、BtoBの購買プロセスの半分以上(広告やコンテンツなど)は、営業担当者に会う前に終わっているとされています。つまり、BtoBマーケティングに注力しないということは、大きな機会損失になっているということを理解しておきましょう。
一般的なBtoBマーケティングにおける「リレーション」とは?
一般的なBtoBマーケティングを成功させるためには、製品・サービスの認知から購買に至るまで、顧客との良好な関係を築き上げることが大切です。これを「リレーション」といいます。リレーションは見込み客(リード)の創出から始まり、顧客を育て上げた上で商談・受注に結びつけます。では、そのリレーションの流れを詳しく見ていきましょう。
挿絵として、矢羽根のほかに、わかりやすく漁業の画像で表現してみました。
①リードジェネレーション(見込み客の創出)
リードジェネレーションとは「見込み客=自社の製品・サービスに興味関心を持っている人」を作り出すことです。マーケティングのプロセスにおける、顧客との最初の接点になります。オフラインでは展示会や名刺交換・セミナー・テレアポ・テレビCM・交通広告、オンラインではWeb広告・メルマガ・コンテンツマーケティング・Webセミナーといった、さまざまな手法が使われます。
②リードナーチャリング(見込み客の育成)
獲得したリードのうち、すでに購入をほぼ決めているホットリード(今すぐ客)は、全体のわずか10%程度とされています。多くのリードは自社のサービスを詳しく知らず、まだ購入意識が高くありません。このようなリードを、顧客として育成するプロセスがリードナーチャリングです。
そのためには、潜在的なニーズを抱えるリードに対し、有益な情報提供やヒアリングと提案を行い、自社への興味関心や信頼性を高める必要があります。特にBtoBマーケティングの場合は、意思決定のプロセスが複雑で検討期間が長期化しやすいため、リードの抱える悩みや課題を詳しく把握し、適切なコミュニケーションを図ることが大切です。
③リードクオリフィケーション(見込み客の選別)
クオリフィケーションとは「選別」という意味で、ナーチャリングしたリードの中から、特に購入確度の高いホットリード(今すぐ客)を見つける作業のことです。購入確度の推測には「スコアリング」という手法がよく使われます。
たとえば、メルマガを読んだら3点、資料請求をしたら5点、セミナーに参加したら10点など、一定の条件に基づきリードに点数を付けていきます。そして、一定の点数を超えたリードをホットリードとし、さらなるアプローチをかけるのです。ホットリードをリスト化すれば、効率的な営業活動が可能になり、最適なタイミングでアプローチができるというメリットがあります。
④商談・受注
ホットリードを選別したら、商談を行い受注へとつなげます。商談の際には、そのリードがどのようなリレーションを通ってきたのかを詳しく把握しておくと、営業トークに活用して受注率アップにつなげることが可能です。
ちなみに、一般的な商談の受注率(受注件数/商談数)は10%〜30%とされています(サービス単価にもよる)。もし10%を下回っているようなら、ここまでのプロセスや商談の内容を見直すといいでしょう。
⑤継続利用
獲得した顧客は、1回の商談・受注で終わらせるのではなく、継続してサービスを利用してもらう(リピーターになってもらう)ことが大切です。そのためにも、サービスの利用状況の確認や顧客の疑問への回答、課題解決のための積極的なアドバイスといった「カスタマーサクセス」に注力しましょう。
一般的なBtoBと建設業界のBtoBの違い
ここまで見てきたように、BtoBはリードタイムが長いのが特徴です。しかし、建設業界の場合は、他業種に比べてリードタイムが短い傾向があります。リードジェネレーションから顧客の育成・選別を跳び越して、一気に資料請求や問い合わせ、商談に進むケースが多く見られます。
なぜなら、急ぎで施工会社を探していたり、そもそもじっくり選ぶ時間的余裕が(お互いに)なかったりするケースが多いからです。逆にいうと、リードジェネレーションの段階で顧客側の選別(サービス内容の選定・依頼業者選び)は終わっています。
そのため、建設業界でのBtoBでは、実績や自社アピールを惜しみなく発信する必要があります。また、リード発生後の商談をスムーズに行うために、会社概要のPDFや最新の工事実績をすぐに送れるように準備しておくべきでしょう。代表や部長クラスの人物が、リアルですぐに商談を行えるよう、営業体制を整えておくことも大切です。
その上でマーケティングを行うわけですが、具体的にどのような手法を使えばいいのでしょうか? 建設業界でのBtoBマーケティングにおいて有効な手法を挙げてみましょう。
コンテンツSEO/オウンドメディア
良質な記事コンテンツを制作・発信し、検索エンジンでの上位表示を狙います。特定の課題を抱えている顧客を効率よく集客できますが、効果を発揮させるためには一定の質と量のコンテンツを「更新し続ける」必要があり、時間がかかります。具体的には、効果が出るまでおよそ半年ぐらいは見ておいた方が良いでしょう。
一方、検索でいったん上位に表示されるようになると、広告費を掛けることなく、長期にわたってその他のページも含めたサイト全体が検索上位に入りやすくなります。結果、ホームページを訪問するユーザー数が増えて、お問い合わせや資料ダウンロードなどのコンバージョンを増やすことができます。
検索で上がりやすいのは「ユーザーが求めている情報」であり、かつ「ユーザーにとって有益な記事」です。たとえば、BtoC集客であれば、プロ目線で指南する住まいの改善・補修のポイントなどHow Toものがおすすめですが、BtoB集客であれば、自社の強みや技術力などの差別化ポイントを、ニッチで深い視点で表現し、ロングテール狙いで書くのがおすすめです。
リスティング広告
「コンテンツ施策の反響が出るまで待てない!」という会社さんにおすすめなのが、即効性のあるWeb広告です。その筆頭に挙げられるのが「リスティング広告」です。検索連動型広告ともいい、Googleなどの検索エンジンでユーザーが検索したキーワードをもとに、テキスト形式の広告を検索結果画面の上部(またはページの下部)に表示してくれます。
低予算で始めらますが、競合が多いと費用対効果が落ちてしまいます。また入札するキーワード構成をペルソナに沿って設計したり、時期に合わせて定期的に変更を加え続けないと高い効果が見込めないなどの欠点があります。したがって、運用は業者に任せた方が無難といえます。
ディスプレイ広告
Webサイトやアプリなどの広告枠に表示される広告で、バナー広告とも呼ばれます。画像や動画とテキストを組み合わせるので、潜在層の需要を喚起でき、またリスティング広告と比べてクリック単価(CPC)も低めなため、低予算で認知拡大をすることができます。ただし潜在層を拾いやすいだけに、リスティング広告と比較するとコンバージョン率は低めです。
建設業BtoBでの使い方としては、潜在顧客向けに自社名やブランドを刷り込ませることをメインの目的としつつ、あわよくば資料ダウンロードなどのマイクロコンバージョンを経てリストに追加。このリストをもとに長期で顧客醸成していく、という手法が一般的です。
リターゲティング広告
リターゲティング広告とは、自社のHPやLPを一度訪問したユーザーに対して、cookie情報をもとに広告を配信する手法になります。
一般的なBtoBマーケティングでは検討期間が長く、また建設業のBtoBでは検討期間はそう長くないものの、サイトの内容を隅々まで見て慎重に精査する傾向があります。つまり業界問わず、Webサイトを1回訪問しただけでコンバージョンに至ることは多くありません。そこでリターゲティング広告を使うことで、一度接触したユーザーに繰り返しアプローチし、再訪問や自社の想起を促すことができます。
一例としては、先に紹介したディスプレイ広告で認知を広げながらクリックを誘発し、そこで獲得した潜在層に向けて、リスティング広告をリターゲティングで狙い撃ち・回収する、という戦略になります。
SNSアカウント運用
TwitterやInstagram、LINE、TikTokといったSNSのアカウントを開設・運用して、宣伝活動を行う手法です。運用するだけなら広告費がかからず、ユーザーとの接触によって、認知度アップやファンの獲得を図ることができます。「顧客醸成」といえば、かつてはメールマガジンが主流でしたが、今ではSNSに取って代わる勢いです。ゼネコンの発注担当も世代交代しており、メールよりもSNSのほうが認知や刺さる深さの点で有効です。もちろん、住まいの一次取得者層にも合致していますので、BtoC集客でも効果的です。
SNSであれば、認知、集客から顧客とのコンタクトまで可能ですが、デメリットとして、ターゲット層が該当するSNSを利用している必要があるのと、定期的なコンテンツの更新、フォロアーや「いいね」をしてくれた人へのメッセージ返信などがネックとなります。また最近は、どの工事会社も動画投稿が一般的になっているので、可能であればSNS専任チームを作るか、編集だけ外注に委託するなどをおすすめします。
SNS広告
SNSへの投稿で潜在顧客とのつながりを地道に拡大していくのも手ですが、広告を使って急速に認知を広げ、コンバージョンまで一気に獲得してしまうのも戦略の1つです。
SNSはユーザーがアカウントを登録する際、年齢や性別、職業、趣味といった個人情報を登録します。そのため、ターゲティングの精度が高いのが強みといえます。広告の種類も豊富で、自社サイトに飛ばしたり、SNS画面内でフォームをポップアップさせてコンバージョンを獲得したり、「いいね」の獲得に特化した広告なども選べます。他の媒体も含めた相乗効果を狙えますので、全体の広告戦略をよく練り、最適な施策を行いましょう。
ホワイトペーパー
ホワイトペーパー(白書)は、いわゆる「会社概要」「会社紹介」「サービス概要」のことで、Web施策ではこの資料をダウンロードさせることで、「マイクロコンバージョン(中間コンバージョン)」を獲得するきかっけにするのが一般的です。
具体的には、「まだお問い合わせ(工事依頼や見積り依頼)の段階までは進んでいない」「お問い合わせはさすがにハードルが高い」という潜在顧客を、そのまま離脱させるのではなく、「資料請求」という形で情報提供をしつつ、リストだけでも拾って「他社に奪われる前に自社で醸成してつなげる」ための道具となります。
デメリットとしては、制作にあたりある程度の時間とコスト、労力がかかりる点があげられます。とはいえ、情報をまとめるために自社の強み、他社との差別ポイントなどを再確認する機会にもなりますし、紙で印刷するパンフレットにも応用できますので、ホワイトペーパー作りに取り組む価値はあります。もしまだ作ったことがないようでしたら、ぜひ作ってみましょう。
プレスリリース
新しいサービスやキャンペーン情報などをプレスリリースに配信し、他メディアに取り上げてもらうことで情報拡散を狙います。方法としては、リリース発信・配信の専門業者がいるので、そこに投稿する流れになります。無料で配信できるサイトがあるほか、有料で各媒体に掲載を掛け合ってくれる業者もいます。
建設業BtoBのリリースで難しいのは、目新しいニュースや魅力的なトピックがなかなか出てこない点です。なぜなら、目新しい内容でないと、各媒体で大きく取り上げてもらえないためです。そのため、協業や業務提携、新しい機材の導入など、ネタとなりそうなトピックを社内で逐一しっかりキャッチしていく必要があります。
記事広告・純広告
外部メディアに有料で記事を掲載してもらう手法で、「タイアップ記事」「バーター記事」ともいわれます。メインターゲットが利用しているメディア(新聞や業界紙など)に掲載することで、自社でメディア運用をしなくても効率よく訴求できます。対して、外部メディアの規定のスペースへ有料で広告を掲載するのが「純広告」です。
純広告は、新聞の下段などでよく見られるような広告で、入稿するデザイン制作が大きな手間ですが、最近はデザイン制作とセットで広告スペースを提供する媒体も多いので、さほどハードルは高くありません。
一方の記事広告は、ぱっと見、通常の取材記事やインタビュー記事に見えますが、実は広告だった…というもので、媒体のブランド力が、そのまま活かせる広告です。注意したいのは、媒体や発行部数によって掲載費用が大きく異なるため、費用対効果の見極めが重要という点です。また、テレビのバラエティ番組も含め、あまりにもバーターのコンテンツであふれているため、マス媒体自体の信用度が落ちており、コンテンツに対しても「あ、これバーターだよね」という引いた目線、疑いの目で見る読者が多いことも考慮しておく必要があります。
テレアポ
テレアポは短時間で効率よくアプローチでき、ターゲットと直接会話することで、相手の課題をヒアリングしながら営業を行えるのがメリットです。ただし、手当たり次第に電話をかけているだけでは成功率は低いので、どのような層にテレアポをかけるか、架電リストはよく精査する必要があります。
外注でテレアポを請け負う業者もいますが、架電の対応次第では相手に嫌な思いをさせてしまい、その後の取引の可能性をつぶしてしまうこともあります。よって、架電担当者への教育内容やスクリプトを、しっかり確認し続けることが重要となります。
テレビ/ラジオCM
テレビやラジオのCMは、幅広い消費者に向けて広告を配信したい、とにかく認知を広げたいときに有効です。年齢や性別を問わず、幅広い層に情報発信ができるのがメリットの1つですが、1回あたり数百万~数千万円という膨大な広告費が発生します。
テレビCMを使ったBtoBの近年の例としては、某大手名刺管理業者が成功事例として知らています。担当者~部長レベルはインターネット広告で施策し、社長や取締役クラスの決裁者に対してはテレビCMで「社名だけでも刷り込ませる」という二段構えの戦略だそうです。承認者が普段接触している媒体に合わせて広告戦略を変えているだけですが、これは建設業のBtoB戦略でも十分通用します。
またバーターで「バラエティ番組や情報番組内で紹介される」という広告手法も数多く見られますが、先述の記事広告でもお伝えしたように、視聴者側も「リアルなのかバーター(案件・演出)なのか?」の目利きも鋭くなってきています。相応のコストが掛かるものなので、効果があるのかどうか、しっかりと見極めましょう。
交通広告
電車やタクシーのディスプレイで配信される広告です。固定の看板もあれば、画面を使ったデジタルサイネージもあります。風景の一部であり隠すことができず、ユーザーの目に強制的に入りやすいというメリットがあります。また、通勤・通学で公共交通機関を利用する多くのユーザーに対し、単純接触効果を期待できます。その反面、効果測定が難しい点に注意が必要です。
MAツール
MA(マーケティング・オートメーション)ツールとは、膨大なマーケティング業務を自動化・効率化するシステムのことです。リードの管理やメルマガ配信、分析といった業務をスムーズに行い、見込み客の温度感の計測やスムーズなタイミングでのアプローチを可能にします。
簡単にいえば、顧客の温まり具合に応じて、適した施策を自動で打ってくれるシステムのことです。できる/できないに限度はありますが、媒体を横断する複雑なマーケティングを自動化してくれるので、建設業のBtoBでも十分有効で業務効率化にも貢献できるはずです。ただしツールの費用はかなり高額なので、導入前にきちんと精査することが必須です。
まとめ
BtoBマーケティングの性質やリレーションの流れを理解し、適切な手法によって マーケティングを行えば、効率よく顧客を獲得することができます。ただし、建設業は他業種と少し性質が異なるため、建設業に適した手法を取ることが大切です。
さらに、自社の強みや課題、競合の存在を分析すれば、ブレがなく優れた戦略を立てられます。3C分析やペルソナ設定なども行い、今後の事業戦略を作成してみてください。
なお、建設DXを支援するBRANUでは、広告戦略の策定から実行・分析までお請けしているほか、業務効率化のためのサードパーティーを含めたソフトの導入支援やコンサルティングも得意としています。建設業のあらゆる事業課題に対応していますので、ご興味のある方は、ぜひいちどBRANUまでお声がけください!