建設業の離職率を下げる方法~なぜ、職人は辞めてしまうのか?

     
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「相当な求人広告費を掛けて採用したのに、長く続かない」
「多忙な中、何とか時間を割きながら育ててきたのに……」

そんな人事担当者や経営者の声はよく聞かれます。

これまでの人材教育に充てた時間や手間、穴が空いた分の人員補充の採用費用などを考えると、入社された方には長く安定して働いてもらいたいものです。
しかも、今後は少子化の傾向がさらに強まり、かつてのような「募集すれば、すぐに代わりが入ってくる」という時代ではありません。若い労働者を獲得できないまま、事業継続が難しくなる可能性も十分あります。

この解決策としては、やはり労働者の離職を防ぐ(離職率の上昇を抑える)のが最も確実です。そこで今回は、建設業の職人が辞めてしまう理由や、離職を防ぐための方法について分析してみました。

「建設業は離職率が高い」というのは本当か?

一般的に、「建設業は離職率が高い」というイメージがあり、業界関係者でもそのように考えている方が少なくありません。「建設業は3Kだから仕方ない」と諦めている方もいるかもしれませんが、実は建設業の離職率はそこまで高くないことをご存じでしょうか?

厚生労働省が実施した、令和3年の雇用動向調査によると、産業全体の離職率は13.9%でした。これに対し、建設業の離職率は9.3%です。離職率が建設業と同等以下の業種は、電気・ガス・熱供給・水道業や情報通信業、複合サービス事業、金融業・保険業くらいしかありません。

つまり、建設業の離職率は、全産業の中でもむしろ低い部類に入るのです。しかも、建設業は入職率の方がやや高いので(入職超過率0.4%)、労働者が減るどころか増えていることになります。職人がすぐに辞めてしまってなかなか育たない時は、業界の性質のせいにするのではなく、「自社に何か問題があるのではないか?」と考えるべきだといえます。

建設業の職人が退職する理由とは?

建設業の離職率自体は決して高くないものの、「職人がすぐにやめてしまって長続きしない」という悩みを抱えている経営者・人事担当者は少なくありません。職人が退職する理由は、給与や労働条件などいろいろあります。しかし、最も注目していただきたいのは「人間関係」です。

「同じメンバーで、終日一緒」の弊害

「同じメンバーで、終日一緒」の弊害

人間関係が原因で離脱されてしまうのは、あらゆる業界や集団にいえることですが、建設業界は人間関係の影響を特に強く受ける傾向があります。たとえば町場でいえば、足場や上棟を除くほとんどの工事は、業種ごとに「班長(+補佐)」の1人~2、3人体制で現場に入ります。その他の職種や野丁場でも、休憩時間を含め、朝から終業までずっと同じメンバーで過ごすことになります。

その結果、「上司と部下」の関係は濃密で、先輩や上司の感情に新人の職人が巻き込まれてしまうケースが珍しくありません。先輩や上司の調子が悪い時やイライラしている時、あるいはクレームが来た時などに、その感情が新人・後輩・部下に向けられがちなのです。

その上、毎日一緒に現場に行かなければならないので逃げ場がなく、指示や確認に先輩の機嫌が加わることで、大きなプレッシャーとなってしまいます。このようなことが続けば、新人の心が折れて辞めてしまっても、まったく不思議ではありません。

個々人の技術が重視される世界

建設業界は、技術力で評価される世界です。しかも先述のように少人数で現場に入る職種であるほど、組織としての評価よりも、個人の技能のほうが評価されがちです。たとえば施工会社に工事を依頼する場合でも、案件の内容に応じて「〇〇さんは空いてる?」「必ず〇〇さんは入れて」と職人を指名すると思いますが、まさにそれが証左です。

「組織力よりも、個人の技能が評価されやすい」ということで、「組織的な連携プレイ」「チームプレイ」よりも、「個人プレイ」「一匹狼」の傾向が強まります。このことで社員同士の人間関係が希薄になったり、上長のマネージメント力があまり重視されないために、悩みを抱える新人職人への対応がおろそかになります。「上司の背中を見て、部下は勝手に育つ」という時代ではなくなった、ということです。

たとえばサッカーや野球など、スポーツ界の「優れた選手が、必ずしも良い監督になれるとは限らない」というのと似ているかもしれません。技術力や営業力が優れていて会社に高く評価されていても、部下をまとめ上げる力、育てる力はまったく別のスキルです。経営者側は、技能評価とポジション(役職)を別軸で考え、適材適所・得手不得手をしっかり考慮して組織作りをする必要があります。

新人教育

会社(≒上司)が魅力的か? 自己成長を感じられるか?

仮にどれだけ給与や労働条件をよくしても、人間関係に大きな問題がある環境になってしまうと、若い職人は辞めていくでしょう。会社を作り上げるのは人ですから、人に魅力がなければ会社そのものに魅力を感じなくなるのです。(※ここでいう「人」は、新入社員から見ると、主に「直属の上司」「中間管理職」にあたります)

また人材教育において、経営者を悩ます種の1つが「独立」の問題です。せっかく育て上げた有能な職人が独立してしまうと、即戦力が削がれてしまい、事業運営の面で困ってしまうからです。建設業は独立が比較的容易ともいわれていますので、業界そのものが抱えている課題だといえます。

しかし教育の手を抜く訳にもいきませんし、自己成長を感じられなければ、不満が募って辞めてしまうかもしれません。経営者や人事担当者の方は、このようなジレンマと向き合いつつ、職人が辞めない環境作りをする必要があるのです。

他業種でも同じ! 国の統計にも現れる人間関係の重要性

次は視野を少し広げて、他の業種も含めた「全業界」の労働者が辞めてしまう理由を見ていきましょう。前述したように、人間関係が原因で退職してしまう人が多いのは、何も建設業界に限った話ではありません。他業界でも人間関係は離職理由の筆頭であり、国の統計にも現れています。

令和3年の雇用動向調査によると、転職入職者が前職を辞めた理由として特に多かったのは、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」でした(男性8.0%、女性10.1%)。一方、「職場の人間関係が好ましくなかった」を離職理由に挙げた人も、男性では8.1%、女性では9.6%います。つまり、人間関係は労働条件と同じくらい重要なのです。

転職入職者が前職を辞めた理由別割合

職場の人間関係が理由で辞める割合は多い。出典:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」より

また、年代別に見ていくと、人間関係を理由に退職した人の割合が最も高いのは、男性だと19歳以下(18.1%)、次いで20歳~24歳(12.8%)でした。20代前半までの若い世代ほど、特に人間関係が大きな影響を与えやすいことがわかります。

転職入職者が前職を辞めた理由別割合-25才

人間関係が理由の退職は、特に24歳以下で突出している。出典:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」より

さらに、平成30年の若年者雇用実態調査によると、初めて勤務した会社をやめた理由(3つまでの複数回答)で最も多かったのは、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった(30.3%)」、次いで「人間関係がよくなかった(26.9%)」でした。こういったデータを見ても、労働者、特に若い世代が人間関係を理由に離職しやすいのは明らかです。

性・年齢階級・最終学歴・雇用形態・初めて勤務した会社での勤続期間階級、最終学校 卒業後初めて勤務した会社をやめた主な理由別在学していない若年労働者割合

人間関係理由の退職はH30年(2019年)時点で2位。年々上昇しているのも特徴。出典:厚生労働省「平成30年若年者雇用実態調査の概況」より

これらのデータを分かりやすくいえば、「直属の上司とのウマが合わない」。極端にいえば「直属の上司の指示や態度があまりにも理不尽で腹落ち出来ない」ということが、離職を誘発する理由となります。これは、全業種でいえることです。

たとえ自分が求めている仕事内容であり、会社の目標に共感できていたとしても、こうした人間関係に問題を抱えていては長く働くことはできません。大手企業であれば、会社の安定性や将来のキャリアへの期待などで、「上司1人ぐらいで自分の人生を棒に振りたくないので、上司(または自分)が異動になるまで頑張る」など、離職を思いとどまらせることもできるでしょう。しかし、中小零細企業ではそうもいかないのが現実です。そのため、他の離職対策を取る必要があります。

職人の離職率を下げる効果的な対策

離職理由第1位の「労働時間・休日」については、元請けや現場の関係もあり難しいことと思います。であれば、職人の離職率を下げるためには、離職理由第2位の「人間関係」に着目するのが最も確実です。人間関係が原因で会社を辞めてしまう人が大勢いる分、対策を打ったときの効果も大きく、しかもそれほど経費をかけずに実行することができます。そこで、以下の2つの改革を実施してみましょう。

会社の風土を変える

これからの時代は、会社の風土そのものを変えていくことが大切です。個人プレイが中心で、先輩や上司の感情が現場で反映されてしまうような状態が続くと、新人はなかなか定着しません。仕事を受注して現場を回して行きさえすれば、背中を見て自動的に人が育っていくという時代ではなくなっているので、経営者や中間管理職の態度から変える必要があります。

まずは、たとえ小さな会社でもしっかりとした組織作りを行い、「幹部も含めた中間管理職の人材育成・意識改革」に取り組める体制を作りましょう。人材育成といえば「新人教育」についてはどの会社も力を入れますが、実は上司や中間管理職、幹部にも、同様に教育が必要です。すでに「会社の顔」となっている中間~上層部の人への教育こそ、より良い会社にする近道であり、離職率を下げるポイントとなります。

またチームワークの機会、組織としての活動を意識的に増やすことで「自然と解決できる部分」が出てくるほか、「まだまだ取り組まなければならない課題」も見えて来ます。現場でのチームワークが難しければ、現場終わりや現場がない日の資材整理や道具の整備、社屋や倉庫の大掃除、あるいは休日を使ったバーベキュー大会など、「全社で役割分担をしながら取り組むイベント」であれば有効です。

経営者や幹部はそこで出た課題を見落とさずにどんどん拾い、向き合って解決していくことが、離職を防ぐ最大の施策といえます。これは、どんな企業にもいえる永遠のテーマでもあります。

会社の風土を変える

居場所を作ってあげる

職人をはじめ、働く人たちが会社に求めているのは、結局のところ「居場所」です。居場所がなければ仕事にやりがいを感じられず、将来に希望を見いだすこともできません。このような状況に置かれた職人は、どれだけ優秀でもいずれ会社を辞めてしまうでしょう。

そして居場所というのは、自分の能力が周囲に承認され、必要とされることで作られます。つまり、自分を認めてくれる人が会社に何人いるのか? という問題になってきます。とはいえ、ただ「認めている」と言ってあげればいいわけではありません。上司や先輩が本当に自分を認め、必要としているのかどうかは、本人にはよくわかるものです。

「居場所づくり」に明確な正解はありませんが、まずは「自分が相手の立場だったらどう感じるか?」「その職人が何をしてほしがっているか?」「逆に自分たちはその職人に何を求めているのか?」といったことを考えてみましょう。そうすれば次第に、「この人はどうすればやる気が出て、居場所があると感じられるのか」を理解できるようになります。

尊敬する人から褒められてやる気を出すのはもちろん、しっかり注意・指導した方がモチベーションを高められる人もいますし、ライバルと切磋琢磨してどんどん成長するタイプの人もいます。職人の個性はそれぞれ違うのですから、一人ひとりに向き合うことが何よりも大切です。

居場所を作ってあげる

まとめ~職人の離職を防ぐため、採用ページの内容も工夫を!

建設業の離職率は、決して飛び抜けて高いわけではありませんが、建設業特有の注意点があるのも確かです。社内の人間関係は、給与や労働条件と同じくらい重要なポイントなので、十分に気を配る必要があります。今の時代に合わせて会社の風土を変え、職人の居場所を作ってあげれば、離職を防ぎ長期間働いてもらうことができます。

さらに、自社の理念や社風をホームページの採用ページに明記し、採用段階でしっかりと見せることで、「こんな会社だとは思わなかった」「思ってたのと違う」といったマッチング不具合による早期離職を防ぐことも可能です。具体的には、ハローワークの求人票や求人広告では掲載文字数やレイアウトに制限があり、労働条件ぐらいしか伝えることができません。しかし採用ページがあれば、こうした求職者が求める重要な情報を補うことができる、というロジックになります。

採用ページで必要な要素は、たとえば「企業理念」「代表挨拶」「将来の展望や事業の方向性」「スタッフ紹介」などがあげられます。効果的な採用サイトについて本格的に取り組みたい場合は、実績のある専門業者に相談してみることをおすすめします。

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この記事を書いたライター
政所健司

建築専門出版社にて住宅誌の編集長を歴任。国交省・住宅金融支援機構・NEDO等の広報誌制作業務に参画後、LIXILリフォームショップFC店の企業広報を経て現在BRANU株式会社にてマーケティングを担当。「現場で一番汗を流している人たちこそ主役に」という考えのもと、中小零細企業へのIT支援・DX支援・事業支援を通じて建設業界の古い産業構造の改革を目指す3児の父。

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