「働き方改革関連法」が順次施行され、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されています。建設業は業務の特性を考慮され、2024年4月までの猶予が設けられていますが、実現が難しいのではないかと疑問視され「建設業の2024年問題」ともいわれています。
働き方改革関連法といえば、「時間外労働の上限」や「割増賃金率の増加」などの施策が挙げられますが、下請けで入っている中小建設業の経営者にとっては「元請け次第」「現場の進行次第」ということもあり、大変悩ましい問題です。
とはいえ、違反した場合は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金という、刑事罰が科される可能性もあります。「最悪罰金は何とかなるとしても、懲役とか前科が付くのはちょっと…」と不安な経営者の方も多いでしょう。また、違法行為を行った会社として公共工事の受注などにも影響してきますので、十分に注意しなければなりません。
では、このような事態を避けるため、中小建設会社の経営者は何をしなければならないのでしょうか? ここでは、2024年に向けて経営者が取り組むべきことを解説します。
そもそも、なぜ働き方改革が必要なのか?
最初に、建設業界において働き方改革が叫ばれている理由を知っておきましょう。働き方改革の目的を簡単にいうと、建設業界の人材不足を解消し、業界を活性化して持続可能な産業にすることです。
日本では長時間労働が問題になっていますが、建設業界は特に深刻な状況に置かれています。国の調査によると、2020年度の建設業の実労働時間は1985時間で、他の業界の平均に比べて364時間も多い状態でした。それに加え、週休2日を取れているのは全体の2割以下で、週休1日をきちんと取れない人が6.6%いました。
こうした労働環境の悪さが、離職率の増加や就職者の減少につながっていると考えられます。これを改善するため、他の業界以上に働き方改革が急務となっています。また、働き方改革関連法の施行に猶予期間が与えられたのも、他の業界以上に長時間労働が常態化しているため、すぐに新たなルールを適用するのはハードルが高いからなのです。
建設業働き方改革加速化プログラムとは?
建設業の働き方改革を実現するためには、相当なテコ入れが必要になると考えられます。そのため国土交通省は、建設業の労働環境を効果的に改善するため、「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定しました。このプログラムは、以下の3つの柱から成り立っています。
【1】長時間労働の是正
労働時間を適正にし、週休2日を確保するための施策です。発注者の特性を踏まえた工期設定や、公共工事の週休2日工事の適用拡大、「適正な工期設定等のためのガイドライン」の見直しなどによって、働きやすい環境づくりをサポートします。
【2】給与・社会保険
労働者のスキルに見合った待遇を受けられるようにするための施策です。技能者の資格や経験を登録して把握しやすくする「建設キャリアアップシステム」への加入推進や、適切な賃金水準の確保、労務単価の活用などが主な内容です。また、工事の発注先を社会保険適用業者に限定するよう要請し、社会保険への加入をミニマムスタンダード(最低水準)にすることも狙います。
【3】生産性向上
仕事の効率化を図り、建設業の生産性を向上させるための施策です。ICT(情報通信技術)の導入や多重下請構造の改善、現場技術者配置要件の合理化(配置義務の緩和)などを推進します。
これらの内容が実現できれば、建設業界の労働環境は大きく改善されるでしょう。働き方改革関連法と合わせ、上記の「3つの柱」をしっかりと意識しておく必要があります。
働き方改革関連法の施行で、具体的にどんな規制が入るのか?
それでは実際のところ、建設業界にも働き方改革関連法が適用されると、具体的にどのような規制強化が行われるのでしょうか? 主なものを確認しておきましょう。
労働時間の上限=時間外労働は月100時間未満・年720時間以内に
最も大きな変化は、労働時間の上限規制です。まず、いわゆる36協定を結んだ場合でも、時間外労働は原則月45時間・年360時間までになりました。特別条項付き36協定を結んだとしても、年720時間(休日労働含まず)が限界です。
また、特別条項を利用する場合は、「時間外労働は1ヶ月100時間未満(休日労働含む)」「45時間を超過できるのは年6ヶ月まで」「2ヶ月~6ヶ月平均で80時間以内にする」といった条件を守る必要があります。一時的に業務量が増加した場合でも、極端な長時間労働はできなくなったのです。
正社員・非正規社員の同一労働同一賃金
正社員や非正規社員といった雇用形態に関係なく、同じ職場で同じ仕事をしているのであれば、同一の賃金を支払う必要があります。無事故手当や作業手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当といった各種手当も、正規・非正規を問わず支給しなければなりません。ただし、現状では明確なガイドラインがないので、給与改定の際などは慎重に検討しましょう。
月60時間超の時間外割増賃金率を50%に引上げ
月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が、25%から50%へ引き上げられます。時間外労働が多い企業では人件費が大幅にアップすると予想されるため、注意が必要です。なお、休日労働と深夜労働の割増賃金率(35%および25%)は従来と変わりません。
年次有給休暇(5日)の確実な取得
付与した有給日数が10日以上ある従業員に対し、時季を指定して5日分の有給を取得させる義務があります。ただし、労働者自らの申請による有給や、労使協定に基づく計画年休によって取得した有給は、この「5日分」に含みません。
罰則を受けないためには、どんな対策をすべきか?
働き方改革関連法の規制を守れないまま2024年4月を迎えると、法令違反となり罰則を科されてしまいます。もし規制内容に反した状態になっているのなら、必ず施行までに改善しなければなりません。では、そのためにはどのように動くべきなのでしょうか? 具体的な対策をご紹介します。
長時間労働の是正
時間外労働を減らすためには、まず原因を可視化することが大切です。そこで、作業の流れをなるべく細かく分類して、時間がかかっている作業を抽出しましょう。その上で、「なぜその作業に時間がかかるのか?」を分析すると、効果的な対策が打てます。
また、所定休日の一部は作業所を閉所し、休日の作業自体をできなくしてしまう施策も有効です。1週間に1回でノー残業デーを実施し、定時帰宅するよう労使間で協力し合って呼びかけを行うのもいいでしょう。
給与・社会保険
従業員の待遇改善のためにやっておきたいのが、人事評価制度の見直しです。まずは評価の明確な基準を決定し、公平性を持って運用しましょう。従業員個人に目標を決めてもらうMBO(目標管理制度)や、上司に加え同僚や部下からも評価してもらう「360度評価」の導入も選択肢の1つです。
生産性向上
生産性をアップさせるためには、ITツールの積極的な導入がおすすめです。1つのシステムによる情報の一元管理や、レポート機能を使った現場からの報告、写真や図面の共有などができるようになると、現場・オフィスを問わず効率よく仕事ができるようになります。可能であればテレワークも導入し、事務処理などは自宅でも行えるようにするといいでしょう。
なお、長時間労働の是正や仕事の適切な評価は、従業員のモチベーションアップによって生産性向上にもつながります。逆に、生産性が向上すれば長時間労働も是正され、給与などの待遇も改善しやすくなります。「3つの柱」はすべてつながっていると考え、積極的な対策に取り組みましょう。
元請けにも国交省の「適正な工期設定等のためのガイドライン」があります
ここまでの解説を読むと、何やら下請けの経営者にばかり負担を押し付けているように感じるかもしれません。しかし、働き方改革の実現のために、元請け業者にもしっかりと働きかけが行われています。それが「適正な工期設定等のためのガイドライン」、通称「国交省ガイドライン」です。
これは「建設業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」によって2017年8月28日に策定されたもので、2024年までに受注者・発注者が取り組むべきことの指針がまとめられています。ガイドラインの基本的な考え方は、受注者(下請け)と発注者(元請け)が対等な立場で契約することや、長時間労働を前提としない適正な工期にすることなどです。
その他にも、職人や材料を確保する「準備期間」や「後片付け期間」を考慮すること、社会保険の法定福利費などを見積書や請負代金内訳書に明記すること、三次元モデルを活用して生産性を向上させることなど、いろいろな指針が示されています。下請け業者の側も、元請けに対してこれらの指針を守るよう求めていきましょう。
※参考サイト=国土交通省「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドラインについて」
デジタル化で生産性を向上させ、働き方改革を実現しましょう!
長時間労働の是正や待遇改善が必要だと理解しているものの、現実には難しいケースも多いと思われます。売上を維持しながら働き方改革を実現するためのカギは、やはり生産性の向上です。国土交通省では「i-Construction」という取組みを提言していますが、これはデジタル技術を活用した業務・組織・働き方から建設業そのものの変革、いわゆる「インフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)」を目指すとしています。
先進的なものとしては、重機の遠隔操作やドローンを使った測量などが挙げられます。その第一歩として、ホームページを使ったオンライン集客やアプリを使った事務作業・施工管理のデジタル化など、手軽に始められるものもあります。
もちろん、手当たり次第に導入すればいいわけではありません。大切なのは、自社の状況に合った施策を実行することです。働き方改革のために何ができるのかを分析して、2024年4月に間に合わせましょう!