建設業は国内第2位の巨大産業であり、国を形作る建物やインフラの新設・整備のためになくてはならない業界です。この建設業が、今危機にさらされています。折からの人手不足や経済不況、材料費高騰に加え、インボイス制度の導入、働き方改革など、さまざまな課題が山積しているからです。これをどう乗り越えるかで、今後の建設業、ひいては日本の将来が変わってくるといっても過言ではありません。
この先、建設業界で生き残るためには、これまでの商流や経営を踏襲するのではなく、根本的に変革を図る必要があります。では、一体どのような工夫が必要なのでしょうか? 生産性の向上やビジネスモデルの変革に向けて、デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増えていますが、果たして導入の効果はあるのでしょうか?
ここでは、建設業における経営の課題と解決策、経営戦略のポイントについて解説します。
建設業における経営上の課題
現在の建設業は、さまざまな課題を抱えています。その中でも、経営上特に重要な4つの課題について見ていきましょう。
課題1:属人化と多重請負構造の常態化
建設業は、他の業種に比べて各種ノウハウのテンプレート化が難しい特殊な業界です。加えて、特定のシステムに頼りにくいという特性も持っています。そのため、従業員個々のスキルや経験に「過度に」依存してしまい、属人化が進みやすい傾向があります。
もちろん、属人化のすべてが悪い訳ではありません。しかし属人化は、業務効率化や職場環境の改善を困難にする一因といわれています。職人ごとに独自ルールが存在したり、その人が辞めたら会社のノウハウが途絶えてしまうなど技術継承の問題もあります。営業活動も例外ではなく、「この人でないと受注できない」といった人間関係を重視した慣行がまだまだ残り、中長期的な経営戦略の策定を難しくしています。
また、建設業界全体の多重請負構造も大きな課題です。現在の建設業界は、情報がさまざまな場所で共有されるようになった一方、全体像の客観的な把握が困難になっています。その結果、プロジェクト全体の一元的な管理が難しくなり、効率的な業務遂行やリスク管理が阻害されることがあります。
課題2:工事の受注減少
近年の建設業界では国内外を問わず、新規案件の受注件数が大幅に減少しています。その背景にあるのは、日本の経済不振です。建設投資額は、平成4年度(1992年度)の約84兆円をピークとし、平成22年度(2010年度)には約42兆円まで減少しました。最近は持ち直しの兆しも見られますが、それでもピーク時から約3割減少している状態です。また、建設事業者の数もピーク時から約2割減少しています。
そのため、何も動かずにこれまでの「つながり」に頼って工事を請けているだけでは、徐々に仕事が目減りしていくのは明らかです。建設業界の企業は自社の受注量を維持するために、新たな経営戦略の構築やマーケティング施策を見直す必要があります。現在の厳しい競争環境で生き残るためには、受注先を新規開拓するための戦略や、自社の強みをアピールするマーケティング手法などを考案しなければならないのです。
課題3:社会のニーズの変化
新型コロナウイルスの感染拡大は、建設工事のニーズに大きな影響を与えました。たとえば、感染リスクを避けるためにリモートワークが推奨され、自宅で過ごす時間が増えたことで、「自宅をより快適にしたい」というニーズが高まりました。
また、感染対策を意識した環境(換気設備の強化など)を作るための工事の需要は、引き続き堅調です。2023年5月に新型コロナの感染症法上の位置付けが5類に移行したとはいえ、リモートワークの定着やオフィス・飲食店の抗菌・除菌施工など、今後も残ると思われる習慣は多く、社会のニーズの変化に敏感に対応する必要があります。
課題4:デジタル化の遅れ
日本の建設業界は、他の業種と比べてデジタル化の取り組みが遅れています。たとえば、業務連絡や打ち合わせ、図面の管理、資材の受発注といった業務は、今なおアナログ的な手法(紙ベースでの管理など)が主流です。
たとえば「4年前に施工した少額案件の見積時の内訳を確認したい」「5年前の工事で使った部材を再発注したいので商品番号を知りたい」といった場合、どのぐらいで出せますでしょうか? 場合によっては半日作業になったり、あるいは「出て来ない」とあきらたほうが結果的に効率的なケースもあります。
現代のように限られた人員で、かつ働き方改革にも対応するためには、業務の効率化や情報共有の向上を図ることのできる、新しいシステムの導入や事務処理の電子化・最適化など、業務の基盤部分から見直すことが不可欠です。
これからの建設業における経営戦略のポイント
今後も建設業界において生き残っていくためには、業界の抱えるさまざまな課題を改善し、戦略的な経営を行う必要があります。そこで、これからの建設業における経営戦略のポイントを確認しておきましょう。
ビジネスモデルの再構築(営業活動の見直し)
建設業界では、「ビジネスモデルの再構築」が重要な経営戦略として挙げられます。たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大により、大企業を中心に地方への本社移転や拠点の分散化が検討されるようになりました。
この動きは5類移行後も続いており、従業員が地方へ移住するケースが一定数続くものと予想されます。もし移転企業の従業員に対して魅力的な環境を提供できれば、経営上大きなプラスになるでしょう。そのためには、国内の動向を的確に把握するとともに、自社が受注可能なエリアを広げる必要があります。
もちろん、移転先エリアを拠点としていた施工会社にとっても大きなチャンスといえますが、ニーズというのは常に変化し続けるもの。その変化に柔軟に対応しなければ、受注量の確保や売上の向上は困難です。ただ既存顧客からの発注を待つのではなく、常に市場のニーズやトレンドを注視し、顧客が求めるサービスや住宅環境などを積極的に提案し続けましょう。
業務のデジタル化の推進(財務管理の徹底・生産性向上)
業務のデジタル化を積極的に進めていくことは、これからの建設業にとって必要不可欠な経営戦略です。現在、「建設DX」が国を挙げて推進され、アナログ業務をデジタル化し、業務や組織を変革する取り組みが始まっています。その結果、最新のITシステムを導入する企業が急速に増加しているのです。
たとえば、図面や請求書、経理書類などのさまざまな書類を紙ベースからクラウド上に移行するなど、あらゆる面でデジタル化を推進する必要があります。これは財務管理をしやすくし、生産性向上につながるでしょう。先に挙げた過去の見積や発注部材の確認も、半日かかってた作業が、ほんの1~2分で完遂できたりします。
さらに、施工管理アプリやICT建機の活用など、建設現場のデジタル化も進んでいます。業務の効率化は、労働時間の削減や人手不足の解消など、建設業界が抱える多くの課題の解決にもつながると期待されています。
顧客に選ばれるサービスの提供(人材教育・待遇改善・人材確保)
建設業界において、顧客から選ばれるサービスを提供するためには、自社の技術や素材、サービスの品質を明確にすることが重要です。たとえば、特殊な重機の所有や特殊な素材の使用など、他社にはない技術の提供によって、競合他社との差別化を図ることで、元請けに一目置かれる存在となる必要があります。
これは、今まで営業力や個人信用、協力会のつながりなどで成り立っていた工事受注の商流から、より明確なエビデンスが求められる商流へと変わりつつあるのが理由です。元請け側も、よりシビアな選択が求められている時代なのです。
ただし、技術や品質を訴求しても、ターゲットが求めるものと違っていては意味がありません。成果につなげるためには、まず「自社は何が得意か」「ターゲットが何を求めているのか」を正確に把握することが重要です。場合によってはターゲットの変更も検討する必要があるかもしれません。さらに、優れた技術を持つ人材の確保・教育や、優秀な人材の待遇改善などもあわせて実施する必要があります。
建設業におけるデジタル化の課題と障害
ビジネスモデルの再構築や商流の変更は、すぐに対応することが難しい分野といえます。一方、「業務のデジタル化・DX」については、比較的容易に対応できる対策。建設業界でも「今後の事業継続のうえでDXは必要不可欠」「すぐに着手すべき対策」という認識がすでに広まっています。
しかし実は、思うようにDX化を進められないという企業も少なくありません。なぜ建設業のDX化は進まず、他業種に比べて遅れを取っているのでしょうか。デジタル化の課題と障害について確認しておきましょう。
分野ごとの「デジタル格差」の発生
デジタル化の大きな課題の1つが、分野ごとの「デジタル格差」の発生、つまりデジタル化しやすい分野としにくい分野があるということです。野原ホールディングスが2021年に登録モニターを対象に実施したアンケートによると、「デジタル化が進んでいる」という回答が多かった分野は「設計」が最多で、48.4%と半数近くに達しました。
設計のデジタル化が実現しやすいのは、3Dデータの活用やAIによるデータ処理など、最新技術を取り入れやすいことが主な理由でしょう。さらに「積算」が36.4%、「維持管理」が32.4%、「施工」が31.9%と続きます。5Gを活用した建設機械の自立制御Pや、ドローンとAIによる遠隔点検、AIを使った熟練技術の継承など、最新のIT技術は多くの場面で活用されるようになっています。
一方、DX化が遅れているのは「拾い業務(拾い出し)」で、「デジタル化が進んでいる」という回答は25.2%にとどまりました。拾い業務とは積算の一種で、図面などから工事に必要な資材の数を算出する業務です。
拾い業務のDX化が難しい理由としては、デジタル化できない作業が多いことや、現場での変更が多くデータを更新しにくいこと、ツールの使い方を覚えるのに手間がかかることなどが挙げられます。また、そもそもDXが効率化につながりにくい分野だという指摘も見られます。
このように、全体で均一にデジタル化を実現できているのではなく、業務プロセスごとに格差があるのが実情です。特に拾い業務をはじめ、人の手や頭を使って行う業務のデジタル化は難易度が高いと考えられます。
IT人材の不足がデジタル化の障害に
分野ごとの「デジタル格差」のような問題があるとしても、可能な分野からデジタル化を図った方がいいのは確かです。実際に、株式会社インフォマートが全国の建設業のマネージャー(課長)・部長クラス391名を対象に行ったアンケートでは、68.3%が「デジタル化に取り組んでいる」と回答しています。
それにもかかわらず、デジタル化の実現が難航している企業は少なくありません。では、デジタル化の障害となっているのは一体何なのでしょうか?
その答えはほぼ明確です。上記のアンケートで「デジタル化の弊害になりうる課題は?」と質問したところ、半分近い48.7%が「IT人材の不足」と回答しました。続いて「社内体制が整っていない」が43.4%、「システム投資への予算がない」が28.8%となっています。
つまり、そもそもITに精通した人材が社内にいないので、デジタル化をしたくてもできない企業が多いのです。それに加え、DXに対する抵抗感が会社にあり、予算も割かれないので体制を整備できないのだと考えられます。DX化を推進するためには、こういった課題をどう解決するかが大きなポイントとなるでしょう。
信頼できるパートナー企業を見つけることが近道
今後の建設業における経営戦略では、やはりDX化が非常に重要なポイントです。DXは、建設業のビジネスのあり方を根本から変えてくれる可能性を秘めています。DXが実現すれば、建設業が抱える課題を改善し、ニーズの変化にも対応しやすくなり成長も期待できるでしょう。
ただ、「デジタル格差」の問題やIT人材の不足など、DX化における課題は少なくありません。そのため、自社だけでDX化を行うのではなく、信頼できるパートナー企業を見つけることが近道といえます。まずは、DXに詳しい専門業者に相談してみてはいかがでしょうか。
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