ITからICT、AI、ロボティクスなど、技術が進化するに伴って、ビジネスシーンも大きく変化し続けています。この流れに乗り遅れないために高度なシステムを導入し、顧客管理から営業支援、マーケティング戦略の策定までを効率化して成果の最大化を画策している企業も多数存在します。
これは建設業界も例外ではありません。「昔からのつながり」で事業を継続できているケースもあるかもしれませんが、テクノロジーが発達するにつれて、デジタルな手法で仕事を受発注する時代が来ています。
長く安定した経営を保つには、中小零細企業こそ、何らかの策を講じる必要があるのです。
そこで今回は、基本的なビジネス戦略の1つである「ランチェスター戦略」の一部を、かなり噛み砕いてご紹介します。この記事を参考に、他社にはない自社ならではの強みを発揮させて、事業の安定的な継続と利益拡大の足がかりとなれれば幸いです。
超解釈~ランチェスター戦略のキホン
ランチェスター戦略は、もともと軍事的な理論でした。第一次世界大戦の真っただ中の1914年に、イギリスのエンジニアであるフレデリック・ランチェスターが提唱した数理モデル(戦闘の法則)です。
第二次世界大戦が始まるとランチェスター理論は重要視され、アメリカ海軍をはじめ、各国の軍事学者によって研究されて実戦へと活用されていきます。戦後になるとこの理論は産業界に応用され、企業の競争戦略の1つとして普及していきました。
さてこのランチェスターの法則、実際は複雑な微分方程式で「第一法則」や「第二法則」なども存在しますが、難しいことはさておき、究極に要約すると…
つまり「武器の性能と兵力数で、勝負が決まる」というものです。
これをビジネスに当てはめると…
となります。こうして文字にすると、「当たり前」と感じるかもしれません。
でも海外の有名企業のほか、日本でもトヨタやパナソニック、ブリジストン、日本生命、武田薬品、ソフトバンクなど、そうそうたる大企業がこの戦略を使って成功を収めていることから、ランチェスター戦略がいかにビジネスに有効であるかが分かるかと思います。
物量作戦でシェアを狙う大企業への対抗策は?
資金力のある大企業であれば、著名人を起用したTV-CMやチラシを大量に投下し、さらに全国各地に支店を出して営業マンにローラー作戦をさせるなど、「圧倒的な量的経営資源の投入」で戦闘力(売上)を高めることができるでしょう。しかし中小零細企業の場合、資金にも人材にも限りがあるので同様のことはできません。
大企業の圧倒的な物量作戦を前に、中小零細企業はなす術がないのでしょうか?
ここでもう1度、上の式を振り返ってみましょう。販売力(量的経営資源)が劣っていても、それを上回る商品力(質的経営資源)があれば、形勢を逆転させることができます。たとえば[商品力が1で社員数が50人]の会社と、[商品力が10で社員数が6人]の会社では、後者に軍配が挙がります。
1×50人<10×6人
つまり会社の規模が大きければいい訳ではありません。たとえ小さな会社でも、自社の強み(質的経営資源)へ注力し、ピンポイントで売上げを伸ばしている会社はたくさんあります。
質で拮抗していても、中小零細企業は大企業に打ち勝てます!
とはいえ、「競合が投下する量(量的経営資源)を上回るような自社の質(質的経営資源)はあるのだろうか?」「誠実な対応や施工品質には自信があるけど、差別化できるほどの特別な技術があるわけではないし…」という施工会社さんも多いと思います。
そこでもう1つの物差しとして考えていただきたいのが、
「絞り込む」
という概念、つまり「市場を限定すること」です。
「営業(施工)エリアの絞り込み」が分かりやすいかと思いますので、これを例に説明しましょう。
たとえば、中央の赤いマークが御社の拠点とします。青いマークは大手競合の支店です。近辺には競合の支店が2つあり、この地図内で計5人の営業マンがローラー作戦を展開しています。
便宜上9つのエリアに分けさせていただきました。大手競合が投下している営業マンはこの地図内で5人なので、1マスあたり0.55人
5人÷9マス=0.55人
となります。
もし御社が中央の1マスに1人の営業マンを投入できれば、この1マスに限り、「量」で2倍近いアドバンテージができます。
自社1人>競合0.55人
ここなら大手競合を打ち負かし、シェアを獲得してNo.1になることが可能です。言い方を変えると、1人が5人に勝つ構図となります。
地域密着型の工務店・施工会社の成功例は皆さんも多く見聞きしているかと思いますが、その地元への細やかな対応や手厚さは、まさにこの構図が当てはまるのではないでしょうか。
ここでのポイントは、
自社が勝てる環境(状況)に持ち込む
ということ。
つまり
勝てる領域で、勝てる相手と戦う
ことで、中小零細企業でも大手に打ち勝つことができるのです。
上記でご紹介したのは、エリアを絞り込む(局地戦に持ち込む)ことによって形勢逆転を図る例ですが、自社が展開する業務やサービス、分野を絞り込む(一点集中する)ことでも、形勢を逆転させることができます。
たとえば大リーグのイチローは「ホームラン」ではなく、あえて「ヒット」を狙うことで成功を収めています。またある神奈川県の塗装工事店の例では、競合がひしめく一般家屋の屋根・外壁塗装工事ではなく、参入業者の少ない「駐車場防水工事」を前面に出して売上げを伸ばした会社もあります。
なおランチェスター戦略では、1つのエリアでNo.1を獲得できたら次のエリアに照準を定め、同様にNo.1を目指し、これを次々と繰り返しシェアを拡大していくことで地域全体でのNo.1を目指すこととしています。
なお、この「エリア」は「分野」「ジャンル」などに置き換えることもできます。見事な水平展開(横展)で、いつの間にかその分野を代表する存在になっているような企業の例はご存知かと思います。
さてこのシェアを拡大するときに注意したいのが、冒頭でご紹介した計算式です。ここではわかりやすく「エリア」を例にご説明しましょう。
先の地図で、自社の営業マンを一切補充することなくもう1マス営業エリアを広げたら、どうなるでしょうか…?
すると競合に勝てないどころか、自社周辺エリアのシェアさえも失う可能性も出てくるのです。この根拠は、右の計算式をご覧ください。
1マスあたり:自社0.5人<競合0.55人
つい、No.1を獲得した流れで「今、勢いに乗ってるから」「追い風が吹いているうちに」「気合と根性で」などの精神論的な策に陥りそうなところですが、ここはシビアに精査する必要がありそうです。
「勝てる領域」の探し方
中小零細企業にとって、
「勝てる領域で、勝てる相手と戦う」
ことがポイントなのはご理解いただけたかと思います。でも、どのようにして「勝てる領域」を絞ればよいのでしょうか?
3つのステップに分けてご紹介しましょう。
1.競合他社をリサーチし、相手の弱い部分を見つける
自社の強みを明らかにするためにも、競合を分析することは大切です。競合のホームページやチラシのほか、マッチングサイトなどに載っているユーザーの口コミ情報なども参考になります。相手が力を入れていない部分、死角や盲点、よくクレームを受けている部分といった「弱い部分」を見つけることで、自社が目指すべき強みを探す手がかりになります。
2.目指すべき市場を決定する
競合他社や大企業が足を踏み入れていない、手薄となっているマーケットへと絞り込みます。先述も参考に、営業エリア、施工分野、技術、販売経路、客層など、絞り込むことで「自社が優位に戦える市場」を決定しましょう。未開拓のブルーオーシャンで勝負するのも有効です。ただし今後の経営の柱となる部分ですので、この市場で事業が成り立つかなども含めて、事前にしっかりとリサーチをする必要があります。
3.強みに資源を集中する
戦うべき市場が決まったら、そこにリソースを集中する必要があります。会社全体で指標を定めて、人材や費用を注ぐことで御社の強みはどんどん太く丈夫になっていくのです。「ここだけは他社に負けない」と胸をはれるような状況を整備していきましょう。
コンビニエンスストアに見る、ランチェスター戦略のキホン戦略
コンビニエンスストアを例にあげてみましょう。 あなたは大手のコンビニチェーンがひしめく地域で、個人経営のコンビニ店を出店しようとしています。
著名タレントを使ったTV-CMや、安価で高品質なプライベートブランドの商品、楽しいイベントやお得なキャンペーンなど、経営資源を大量に投入する大手に対抗するためには、どのような施策を打つべきでしょうか?
まずは「相手の弱みを分析すること」が重要です。 大手コンビニではできない商品構成や価格帯を考えましょう。たとえば地場の産直品や、ニッチなアイテムを置くなどは個人経営でしかできない施策でしょう。手作りの惣菜を置くなども良いかもしれません。
強みが決まったら、そこに「リソースを割きましょう」。 地場のメーカーと契約したり、調理スタッフを雇うなど、固有の価値を磨くのです。 すると「ニッチな強みで大手に勝てる状況」ができあがります。
・・・
言葉にすると、
「相手の弱みにつけ込んで、そこに集中砲火を浴びせて徹底的に叩き潰す」
という“えげつない”表現になってしまいますが、これもビジネスです。生き残るための手段としてとらえましょう。
いずれにしても、大企業や周辺の競合とは違う明確なモデルをつくり、「○○なら誰にも負けない」という強みを打ち出してそこに注力することは、中小零細企業が事業を存続させ、売上げを伸ばすうえで有効な施策といえます。
ランチェスター戦略は、Webでも活かせます
ランチェスター戦略の考えは、インターネットの世界でも応用できることがたくさんあります。
たとえばユーザーがインターネットで施工業者を探すとき、
「リフォーム ▲▲市」 「屋根塗装 △△区」
など、欲するサービスに「地域名」を添えて検索するのが一般的です。
そのため、ホームページを作るときはタイトルやキーワードを
「関東一円で~」
「東海三県の~」
と設定するよりも、もっと具体的に
「▲▲市の~」 「△△区で~」
のようにエリアを絞り込んだほうが検索順位で上位に表示されやすくなり、ユーザーとのマッチングも高まります。
つまりインターネットはグローバルなイメージがありますが、実は
最初から「局地戦」
なのです。
また同じ地域で同業の競合がいた場合は、いよいよ「質的経営資源」が勝負のカギを握ります。
「自社の強み」や「他社と差別化できている部分」
をしっかりとホームページでアピールする必要がありますが、これができていればユーザーに御社の魅力が伝わり、受注にもつながりやすくなります。
どんな会社にも強みはある
「強みといっても、ウチは特に特徴がないし…」なんて思わないでください。地域や施工ジャンル、技術など、領域を細分化すれば、既にNo.1になっている分野があるかもしれません。どんなに小さなことでも良いので、「ここは他社に負けない」という部分を、ホームページで強く押し出して差別化しましょう。
それでも自社の強みが見つからない場合は、スタッフを紹介したり、マナーを徹底している点を打ち出したりと、今すぐにでも取り組めるような差別化ポイントもあります。特にスタッフ紹介は親近感を生み、顧客にも元請けにも何かと安心させる材料となるでしょう。また求人を募集する際にも力を発揮します。
最後にもう一度書きます。会社の戦闘力は
「質×量」
で決まります。
リソースが少ない中小零細企業だからこそ、自社ならではの「勝てる」戦場を定めて、質を伸ばしてください。そして他社と差別化したホームページも活用して、まずは小さなことから地域No.1を目指しましょう。
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ここでご紹介したランチェスター戦略の内容は、「弱者の戦略」の一部をかなり噛み砕いたもので、分かりやすく意訳した部分もあります。ランチェスター戦略に関しては膨大な数の書籍が出ていますので、ご興味を持たれた方やより詳しい内容を知りたい方は、ぜひそちらをご覧ください。