マーケティングオートメーション(MA)は、見込み客(リード)を集め、育て、契約意欲の高いホットリードを抽出するまでを自動で行なうシステム。「自動」と聞くと、何もしなくてもいいように聞こえます。実際、今後はマーケティングオートメーションにAI/人工知能が搭載され、自社のビジネスモデルと顧客構造、営業経過などから自動で学習し、マーケティングプランを企画運用してくれるようになるでしょう。
ただ、現在はまだ設定をしっかり行なう必要があります。その初期設定で最も難しいのが、「シナリオ設計」です。
シナリオ=MAの要(かなめ)であり最難関
マーケティングオートメーションは、担当営業が付くまでは、ホームページやパンフレット、チラシなどで行なっていた画一的なマーケティングを一新するものです。キーワードは「One to Oneマーケティング」。見込み客1人ひとりに合わせたマーケティングを目指しています。
One to Oneとはいえ、全員に違うコンテンツを表示するわけではありません。見込み客の課題や状況によって配信するメルマガの順番が変わったり、リンクを貼るページが変わったりします。つまり、見込み客の体験が変わるのです。
例えるなら、1冊の本を読者によって、内容の順番を変えたり、一部を削除したり、予備として準備しておいた内容を加えたり、ダイジェスト版にしたりすることで、読者の体験を変えるということです。そのための設定が、シナリオ設計です。
シナリオ設計とは?
シナリオ設計の「シナリオ」とは、日本語の「脚本」や「台本」。映画やテレビドラマのシナリオと同じです。登場人物の行動を時系列で追い、ストーリーのゴールを目指します。
マーケティングオートメーションのシナリオも同様です。契約というゴールを目指して、見込み客という登場人物の行動を追っていきます。そのシナリオに、観客ではなく、シナリオライターという形で参加します。
たとえば小規模な建設会社の場合で少し具体的なシナリオの例を作成してみます。
「工事関連のビジネスショーに参加し、中堅ゼネコンの主任クラスのAさんと名刺交換をする。Aさんは現在、既存の工事会社では3D図面に対応できないという課題を抱えていて、工事会社を探している。そこでまず来場御礼メールを送る。そこから自社サイトにアクセスがあり、3D図面などの新技術関連のページを閲覧がある。数日後、メルマガを送って、新技術関連のオウンドメディアに誘導する。アクセスがあり、資料請求の申し込みがある。ここでセールス部門に今までの経緯を伝えて引き継ぐ」
こういったシナリオです。この「3D図面に対応」のところには自社の強みや取り扱いメニューが入ります。
では、具体的にどのようにシナリオを設計していくのか、流れを見ていきましょう。
STEP1/ペルソナ設定
シナリオを設計する際に、まず考える必要があるのは、「誰を対象にするのか?」ということです。マーケティングやプロモーション用語では「ペルソナ」と呼ばれます。
「すべてのビジネスパーソンが対象」などと広く設定してしまうと、属性も状況も課題も予算もばらばらなので、効果的なシナリオが組めません。しかし、「大手ゼネコンの部長以上の決裁権者が対象」などと狭くし過ぎると、対象が少な過ぎてシナリオを組んでも成果が出ないという状況になります。
お勧めは、まず既存の優良顧客層の集合をペルソナ化することです。企業規模、業種、担当者の役職、職種などから、自社の顧客になりそうな、また顧客になってほしいペルソナを作り上げていきます。
STEP2/カスタマージャーニー設定
次に、ターゲットとする「ペルソナが契約までにどういう行動を取るか?」を考えます。「カスタマージャーニー(マップ)」と呼ばれます。まず、契約までの心理状態を分解し、それぞれの状態のときにどのような情報を求めているのかを考えていきます。
<一般的な契約までの心理状態フェーズ>
認知 → 興味 → 調査 → 納得 → 比較 → 検討 → 条件交渉 → 契約
これはセールス部門と相談して設定していくと良いでしょう。特に新規顧客開拓に実績のあるセールススタッフに相談して、どういうタイミングでどういう情報を提供すれば効果があるのか、詰めていきます。さらに可能であれば、実際の優良顧客に聞くことができれば、よりリアリティが上がります。
STEP3/キャンペーン設計
それらの準備ができたら、仕上げとして「カスタマージャーニー設定」を自動で運用できるよう、マーケティングオートメーションのシステムに設定していきます。多くのシステムでは、「キャンペーン設定」というメニュー名になっています。具体的には、見込み客から何らかのアクションがあったときに、その後どうするかという指示をしていきます。フローチャートのように行動→○/×→それぞれの対応と分岐させていくのです。
たとえば、
見込み客全員に「メールA」を配信
▼
○ 開封した見込み客には、翌日に「コンテンツA」の告知をメール配信
× 未開封の見込み客には、1週間後に「コンテンツB」の告知をメール配信
▼
さらに○、×に対する反応によって、対応が分岐
という形です。
コンピュータのプログラムやRPGゲームを作る際によく使われるフローチャート。マーケティングオートメーションでは、営業をプログラミングするツールとして使います。しかし、複雑に分岐させながらきちんと機能させるためには、メールやコンテンツの量が膨大に必要となります。最初からそれを目指すのは難しいと思います。
そこで、この記事では2つの方向性でキャンペーン設定していく形をご紹介します。
<1>スポット・キャンペーン設定
カスタマージャーニー設定を見ていて、契約に向けてスイッチが入りそうなアクションに対して、反応を単発や2回といった分岐が少ない形で入れていく設定方法です。
- 価格のページを見た見込み客に、ポップアップやメール配信で、特別割引を提示
- メール開封→Webアクセスなしが3回続いた見込み客に、既存顧客のお勧めコメントのメールを配信
- 特定の商品ページに2回アクセスした見込み客に、特定商品の限定動画ページへの案内をメール配信
など、見込み客の心理状態を次のステップへと後押しするためにキャンペーンを設定していきます。
<2>ストーリー・キャンペーン設定
スポット・キャンペーンだけでは、マーケティングオートメーションの本当の醍醐味は味わえません。簡単に取り入れられる<1>をメインにする場合でも、きちんとシナリオ設計したキャンペーン設定も行なってみましょう。
カスタマージャーニー設定で行なった、新規顧客開拓に実績のあるセールススタッフと作成したカスタマージャーニーに従い、トップセールスの営業スタイルをマーケティングオートメーションに注入し、マーケティングオートメーション自体を優秀なセールススタッフに育て上げていくイメージです。
その際、自社の既存のコンテンツだけでは足りないと思いますので、<2>に必要なコンテンツを優先的に制作していけばいいのです。それであれば、コンテンツ数も限定できますし、効果を測りやすいので予算承認なども得やすいと思います。
建設会社でのシナリオ設計の考え方
最後に、建設業界でマーケティングオートメーションのシナリオ設定を活用していく方法について解説します。
建設会社や工事会社といった、顧客が企業の場合が多いBtoBの業態では、一般に検討期間が長く、長期取引が期待できるため、上の「ストーリー・キャンペーン設定」が効果を発揮しそうです。
新技術や商品の場合は、その技術の知識やメリット→他の技術との比較や優位性→競合と比べての自社の強み→条件面での優位性、といった縦の展開を構築して設定していくことが重要です。
競合の多い既存技術の場合は、競合との違いを技術面、サポート面、顧客との関係面、価格面など、横の展開で解いていくことが効果的でしょう。
新築・リフォーム会社でのシナリオ設計の考え方
一方、新築住宅、建て替え、リフォームといった個人顧客向けのBtoC業態では、販売する商品によってシナリオが変わってきます。
まず、新築であれば賃貸や中古物件と比べられることが多いでしょう。それらに対する優位性を納得してもらう必要があります。建て替えとリフォームは迷う人が多いので、強みをよく整理することと、どういうことで悩む人が多いのかをシナリオに反映させる必要があります。
そして、新築、建て替え、リフォームとも、大手、専門会社、地元工務店といった規模と地域の競合もあります。その中で自社に向かう道筋を立てていきましょう。
まとめ
ホームページをセールススタッフに変えるマーケティングオートメーションにとって重要な「シナリオ設計」。
重要であるだけに難易度の高い作業ですので、一気に完璧を目指さず、少しずつ改善しながら進めていくことをお勧めします。その際には、ぜひセールス部門を巻き込んで、自社の営業スタイルも練り上げていきましょう。